禅と茶の集い

みをただし いきをととのえ すわるとき そのみ そのまま みな ほとけなり

会の歩みと私の願い 松風 第7号(昭和60年)

  

 内田ふき                     

 

私たちの禅と茶の集いが始まってから、早いものでもう7年7ヶ月が過ぎました。毎週、摂心会と病気の時を除いて、雨の日も、風の日も、このコミュニティセンターに通ってきたわけです。

金曜日の夜、ときにはつらいなと思うときもありましたが、それは疲れたときか、仕事に追われているときで、大体いつも心がいそいそと弾んでいたように思います。一体これはどうしたわけかと自問してみますと、二つのわけに気付きます。

第一には、禅を組むことはどこにあっても組めるわけですが、やはり大勢で坐る方が気合いが入って、自然と真剣になり禅定に入りやすい、坐ってよかったなという喜びが湧いてくることです。第二には集まってくる道友がいる、しかも熱心に道を求めていて、一緒にお茶を味わい語り合う楽しさがあって、心がやわらぐからだと思います。  

 

最初の頃、太田東吾、登坂英昭、平山順子の皆さんと私などが中心メンバーで、一般市民の方々に呼びかけして始まりました。以前から千葉大学医学部の同窓会館でも月一回の静坐会が行われていましたが、ともすると千葉大学関係者で固まる傾向がみられましたので、もっと広く地域社会に禅のすばらしさを知る仲間をふやさうとして、このコミュニティセンターに会場を求めたのでした。  

 

半年ほど経て、市教委主催の青少年のための禅入門講座が開かれることになり、私にその企画を託されたので、千葉大学白田貴郎先生にご相談申上げ、ご指導下に15回の学習を組み、先生にもわざわざご出講頂きました。終了までに講座生は半分位に減ってしまいましたが、中で鈴木(大友)啓治、栗田和夫のお二人の道心篤い人材を得て、今では、会の中核となって活動していただいています。  

 

当初、会場借用願いを出すときは、断られるのではないかと心配した程でしたが、こうした経緯でこの会の活動は、公共施設の中に市民権を得てきました。ということは、禅は寺院の中あるいは私的機関または仲間内で行うものではないかという、大方の常識を破って、公教育の中に一定の位置を占めることができたわけです。白田先生のお力添え、会員の努力、そして理解を示された市教委に感謝を捧げたいと思います。  

 

禅は宗派性を超えて、世界人類の文化的財産であるべきですから、私たちのこの会では、教団色を抑え、公共施設利用の節度を守って運営してきました。そして週一回の静坐会で足るとする会員を含みながら、本格の禅の道に進むための橋渡しの会として定着してきました。

本格に入門し見性された会員は大友・栗田のお二人のほか、寺田哲朗・東原孝規の皆さんとなりました。まだ入門には進まない会員の中にも、この会を通じて、入門の条件に充分な行を積んでいる方々が、女性も含めて数名見受けられます。

要はご本人の熱意と決心次第ですが、どうぞ、もっと欲張って、辛いけれど、また喜びも深い禅の道に入る勇気をもって下さい。そしてご一緒に健やかな本来の人間のすがたをみつめ、ほんものの人間になって行きたいものと思います。  

 

毎年実施してきた勤労青少年のための禅入門講座も7回を数えることになりました。大勢の方々が関心を持って受講され定着した方もありますが、来るものは拒まず去る者は追わずで、ご縁のできない方も少なくありません。

もっと永続きする方がふえれば、さらに嬉しいのですが、これは世話をする立場の私などの力不足も反省しなければなりません。とにかく会の流れに一時期でも参加し支えてくださった方がおられたから、この会も少しずつ伸びてきたのです。

丁度、縄が多くのわらであざなわれるように、長いわらが多ければそれに越したことはありませんが、短いわらも多ければ、太い縄ができる道理でありますから、その時々を支えてくれた方として感謝しております。

転勤や結婚で去って行った方から、時折の消息を頂くとき、今後の永い人生の中で、再び禅にふれる機会のあるよう祈りたいと思います。挫折を味わい、苦難に当面しない人生は稀です。そんなとき禅を思い出して頂きたい。

それよりなにより例え一応の幸せを得ているとしても、自分の人生を掘り下げ、もっと豊かな真実の喜びを生きたいと痛切に思い立たれたとき、積極果敢に禅の道にとびこんできて下さい。禅のふところは限りなく深いのです。  

 

近頃の会のすゝめ方について、頼もしく感じることは庶務・会計・出版・お茶のそれぞれの係の方が責任をもって、積極的に運営して下さっていることです。一々申上げませんが、段取りよく役目を果たして下さっていますので、会の基本が定まってきてそれが会の発展につながっていると痛感させられます。

とりわけお茶係の方が、この会の点茶を通じて、一段と茶境を深められ、おいしいお茶とお菓子をその都度吟味して下さるので、一同和やかなお茶のひとゝきが楽しめます。茶花や掛物にも細やかな工夫が感じられます。  

 

現代の茶の本としては、一きわ秀でた奥田正造先生著の『茶味』を読書会で読みだしてからは、茶に対する考え方や打ち込む姿勢に変化がみられ本格になられました。茶は小手先でやるものではなく、茶道として人間形成そのものゝ行である、禅と茶のかかわりも次第に深く感得される、ますますお茶をやることが楽しくなってきたなどゝ、お茶係の方々は思っておられるのではないかと推察し嬉しく思います。

本格に禅の行にすゝむにはまだ条件が整わないとしても、お茶の道に一心不乱に打ち込めるなら女性の人間形成として結構なことゝ思います。

今後一層のご精進を期待いたします。  その折り折りの参加者を大切にして、しかし、静坐のときは厳しく真剣に坐って、特色のあるこの会をますます盛んにして行きましょう。会員の誰方にも区別なく、自利利他の行道を進んで頂きたいと願っております。  

合掌