禅と茶の集い

みをただし いきをととのえ すわるとき そのみ そのまま みな ほとけなり

現代社会人のための禅修行階梯 第一部(17)カルロス・カスタネダの言葉

第五章 カルロス・カスタネダの言葉を吟味する  

Ⅰ カルロス・カスタネダの言葉    

 

カルロス・カスタネダ(1925or1931~1998年)は、ペルー生まれのアメリカの文化人類学者といわれています。著作集『呪術師シリーズ』(日本語版は真崎義博訳、二見書房刊)は、西洋中心の世界観に飽き足りない人々に(特に欧米で)大きな衝撃を与えました。    

 

私も30才頃にこの『シリーズ』を読んで、カスタネダの考えと禅における自己の捉え方が極めて似ていることに驚かされました。    

ところがこの『シリーズ』は長くそして難解ですので、カスタネダのとても素晴らしい解説本ともいうべき真木悠介社会学者 見田宗介氏のペンネーム)著の『気流の鳴る音』(筑摩書房刊)から引用してカスタネダの言葉を紹介しておきます。    

 

同書54・55頁からの引用。但し皆様が理解し易いように、順序を少 し変えています。   

 

「われわれは生まれた時は、それにそれからしばらくの間も、完全に〈ナワール〉なのだ。けれども自分が機能するには。その補完物が必要だと 感じられる。〈トナール〉が欠けているのだ。そしてそのことがわれわれ に、早いうちから、自分が不完全だという感覚を与える。そこで〈トナ ール〉が発達しはじめ、それがわれわれの機能にとってきわめて重要な ものになる。あまり重要なものになるので、それは〈ナワール〉の輝き をくもらせてしまい、〈ナワール〉を圧倒してしまう。われわれが完全に 〈トナール〉になってしまったときから、われわれは、生まれた時から つきまとっていた不完全さの感覚をつのらせていくばかりなのさ。この 感覚はわれわれに、完全さをもたらしてくれる他の部分が存在するとい うことをささやきつづける。われわれが完全に〈トナール〉になったと きから、われわれはさまざまな対立項を作りはじめる。われわれの二つ の部分は霊魂と肉体だとか、精神と物質だとか、善と悪だとか、神と悪 魔だとか。けれどもわれわれは、〈トナール〉という島の中の項目を対比 させているにすぎないことに気付かない。まったくわれわれは、おかし な動物だよ。われわれは心奪われていて、狂気のさなかで自分はまった くの正気だと信じているのさ」   

 

「〈トナール〉はその利巧さによってわれわれの目をくらませて、われわれ の真の補完者である〈ナワール〉の、ほんのわずかな感触でさえも忘れ させようとするんだ」   

「〈トナール〉はきわめて貴重なもの、つまりわれわれの「存在」そのもの を保護する守護者だと言える。だから〈トナール〉の特徴は、やりかた が周到で嫉妬深いということだ。その仕事はわれわれの生の中でもとび ぬけて重要な部面だものだから、それはわれわれの中でしまいには変質 してしまい、守護者(ガーディアン)から看守(ガード)になってしま うのもふしぎはないのさ」   

 

「守護者(ガーディアン)とは心が広く、理解力のあるものだ。これと反 対に看守(ガード)の方は、心がせまくいつも目を光らせていて、いつ でも専制的なのさ。〈トナール〉は本来、心が広い守護者でなければなら んのに、われわれの中で狭量で専制的な看守になってしまうんだ」     

 

更に彼は〈ナワール〉と〈トナール〉とが補完者だと述べています。 但し〈トナール〉が真の補完者となるためには、心が広く、理解力のある守護者(ガーディアン)になった時であるともいっています。

この守護者の機能について、同書53頁の部分を引用してみましょう。   

 

「〈トナール〉は「話す(speaking)という仕方で」だけ、世界をつくるん だ。それは何ひとつ創造しないし、変形さえしない、けれどもそれは世 界をつくる。判断し、評価し、証言することがその機能だからさ。つま り〈トナール〉は、〈トナール〉の方式にのっとって目撃し、評価するこ とによって世界をつくるんだ。〈トナール〉は何ものをも創造しない創造 者なのだ。いいかえれば、〈トナール〉は世界を理解するルールをつくり あげるんだ。だから、言い方によっては、それは世界を創造するんだ。」

 

以上カスタネダの言葉を紹介しました。

ここで本稿の読者である皆様方には、私が述べてきました事柄との関連性についてある程度ご理解して頂けたかと思います。

 

そこで皆様方の考えを頭に止めて頂いた上で、私がカスタネダの言葉について、「中核自己」と「自伝的自己」、「自伝的自己」を支えるシステム、「自伝的自己の短所」と「自伝的自己の長所」、「中核自己に備わっている宝物」という視点から吟味する内容と比較してみてください。