禅と茶の集い

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現代社会人のための禅修行階梯 第二部(5)手の形とそれに伴う心の有り様の探求

Ⅱ 「手の形とそれに伴う心の有り様の探求(印契の探求)」

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ダマシオのいう「感情は体性感覚と密接な関係がある」ということに注目しています私にとりましては、「手の形と心の有り様についての探求」はとても重大な関心事です。

ただし、真言密教ではもっと複雑な印契を扱っていますが、私が提案致しますのは、体性感覚領域における「中核自己に備わっている3つの宝物」つまり①「断」または「断」の機能と②「風の感覚・身体が感じる軽やかさ・・・重荷からの解放感・楽しさ」と③A「身体が感じる窮屈さ・身体が感じる弱さ・・・愁い・悲しみ」と③B「身体が感じるゆとり・身体が感じる穏やかさ・・・優しさ・思いやり」をどなたにでも体得し・味わい・使いこなして頂くための目的に限定された印契なのです。

 

1 「法界定印」における探求  

 

坐禅のとき何気なくやっている「法界定印」ですが、『ガイドマップ』 に沿って進んでいただければ、繋意の部位によっていろいろな音色が味 わえられたことでしょう。

特に前項で述べましたように、「坐禅の行」によって「3つの宝物」の①「断」または「断」の機能と②「風の感覚・身体が感じる軽やかさ・・・重荷からの解放感・楽しさ」を体得し・味わい・使いこなすことが重要です。

 

2 右手による「グー」・「パー」・「小三鈷(股)印」と心の有り様との探求

ⅰ 「グー」について   右手でジャンケンの「グー」を作ります。

このとき右親指は中に折 り込みます。仏教の六種拳の金剛拳と同じです。(図3 参照)   

この場合、力が入ったり身体が硬くなることはどなたでも体験でき ます。

この時親指に繋意すれば、歯と舌の関係は、カタカナでいうと「ム」を強く感じます。(もし蓮華拳のように、右親指を中に折り込まずに外に出したらどうでしょう。歯と舌の関係は、「ヌ」または弱い「ム」になるでしょう。)そしてこの「グー」のときの身体の感覚によって、瞬時にして気付き・知覚の素材が当該連合野に到達するのを遮断し(意味記憶の場合)、あるいは想起の素材が想起する部位に到達するのを遮断し(エピソード記憶の場合)、結果的に「自伝的自己」の働きを一時「棚上げ」にすることができることを体得するのです。(この機序については第一部 第四章のⅡ、第一部(15)を参照してください。)つまりこの構えによって、「3つの宝物」の①「断」または「断」の機能を体得し・味わい・使いこなすことができるというわけです。

 

ⅱ 「パー」について   

右手でジャンケンの「パー」を作ります。   

この時各指や掌で風を感じたり、身体の軽やかさを感じるのです。  

口は少し開きかげんになるでしょう。歯と舌の関係は、カタカナでい えば「ハ」に近くなります。   

そしてこのことから、「3つの宝物」の②「風の感覚・身体が感じる 軽やかさ・・・重荷からの解放感・楽しさ」を体得し・味わい・使い こなすことができるようになるのです。

 

ⅲ 「小三鈷(股)印」について(図3参照)   

 

「小三鈷(股)印」は、右手の親指の「赤丸、せきがん」(『ガイドマップ』で説明しましたように、手の第一指の尺骨側の爪の先端部と皮膚との境、針等極細い物を抓む時に用いる処です。この部位には経穴名が付いていませんので、私の命名によるものです。)と、小指の橈骨側の爪の角と皮膚との境を、軽く接触させる印契です。この時両指の腹同士を合わせるのではなくて、あえて「赤丸」と、小指の橈骨側の爪の角と皮膚との境、という極めて窮屈な部位に繋意することが重要です。

 

歯と舌の関係は、カタカナでいえば「ニ」(「リ」に近いと感じるかもしれませんが、赤丸と、小指の橈骨側の爪の角と皮膚との境、という極めて窮屈な部位に繋意しますと、「ニ」の方が正解です)に近くなります。   

これによって「3つの宝物」の③A「身体が感じる窮屈さ・身体が感じる弱さ・・・愁い・悲しみ」を体得し・味わい・使いこなすことができるようになるのです。   

 

「パー」と「小三鈷(股)印」につきましては、後ほど触れる「歩行の修練」で応用されることになります。

また「小三鈷(股)印」は、 第三部 第六章のⅡ 印契を応用した発声 においても、重要な役割をはたします。

 

3 「合掌・拳」の形と心の有り様との探求(図3、参照)

 

ⅰ 堅実心合掌(けんじつしんがっしょう)   

仏教における十二合掌の一つ。両手をギューッと合わせて両掌の隙  間がないようにする合掌。各指先が少し離れます。力が入りますので、    

十二合掌の中では、一番力強いものです。歯と舌の関係は、カタカナ でいえば「ヌ」に近くなります。   

この合掌によって、「3つの宝物」の①「断」または「断」の機能を 体得し・味わい・使いこなしていくのです。

第三部 第六章のⅡ 印契を応用した発声で、これを応用しますときに、このことがよくわかるでしょう。

 

ⅱ 虚心合掌(こしんがっしょう)   

十二合掌の一つ。両手掌の接触面を緩めて膨らんだ蕾のようにする 合掌。堅実心合掌に比べて穏やかさが感じられます。

歯と舌の関係は、カタカナでいえば「ユ」に近くなります。  

この合掌によって、「3つの宝物」の③B「身体が感じるゆとり・穏 やかさ・・・優しさ・思いやり」を体得し・味わい・使いこなしてい くのです。

第三部 第六章のⅡ 印契を応用した発声 で、これを応 用しますときに、このことがよくわかるでしょう。

 

ⅲ 形が少し異なる合掌

この合掌の形は成書には殆んど記載がありません。

方法としては、 まず十二合掌の一つである未開蓮合掌(みかいれんがっしょう、虚心合掌よりさらに膨らむ合掌)を作ります。

それから右親指の「赤丸」とは反対側の角(橈骨側の爪の角)の腹で、左親指の「赤丸」とは反対側の角(橈骨側の爪の角)を軽く抑えるというものです。歯と舌の関係は、カタカナでいえば「ニ」に近くなります。

この合掌によって「3つの宝物」の③A「身体が感じる窮屈さ・身 体が感じる弱さ・・・愁い・悲しみ」を体得し・味わい・使いこなして いくのです。

第三部 第六章のⅡ 印契を応用した発声 で、これを応用しますときに、このことがよくわかるでしょう。

 

ⅳ 外縛拳(がいばくけん)について

クリスチャンの方々がお祈りを捧げるときに、よく用いられる印契です。

これは仏教では、六種拳に分類されています。   

「印契の探求」という観点から見ますと、この拳にはいくつかの音色があることに、気付かされます。   

 

外縛拳で両掌をギューッと合わせて隙間がないようにしますと、右 手の親指と人差し指とが、そして左手の親指と人差し指とが、くっ付きます。

歯と舌の関係は、カタカナでいえば「ム」になります。

この 時は両肩・頸・顔などが固くなってしまいます。

これは堅実心合掌より も力強いものです。

当然「3つの宝物」の①「断」または「断」の機 能を体得し・味わい・使いこなすことができます。

上記の状態の外縛拳を緩め(両手の親指と人差し指とが離れ、両掌が鶉の卵が入る位まで離れ、舌の位置は「ユ」位になる)、各指の付け根の暖かさに繋意します。

これによって虚心合掌と同様に「3つの宝 物」の③B「身体が感じるゆとり・身体が感じる穏やかさ・・・優し さ・思いやり」を体得し・味わい・使いこなすことができます。   

外縛拳で両小指に力を込めますと、歯と舌の関係は、カタカナでいえば「ニ」に近くなります。

このことによって「3つの宝物」の③A 「身体が感じる窮屈さ・身体が感じる弱さ・・・愁い・悲しみ」を体 得し・味わい・使いこなすことができるようになるのです。 以上述べてきました外縛拳におけるいくつかの音色は、第三部 第六章のⅡ 印契を応用した発声で、改めて感じられることでしょう。