禅と茶の集い

みをただし いきをととのえ すわるとき そのみ そのまま みな ほとけなり

【特別寄稿】廻光会発足40周年にあたって

                              境田 格

 

1.廻光会40年の歩み

 

廻光会発足40周年を迎えるにあたりその歩みを平成14年私の入会以来保存している資料と記憶に基づいてたどってみます。

 

・昭和52年11月 

 

 

千葉市教育委員会社会教育課が主催する婦人学級において「日常生活と禅」と題する講座が開催された。

講座終了後、有志の要望により内田ふき先生(注1)を講師として女性のみの坐禅会「禅の市民グループ・廻光会」として中央コミュニティセンター内和室を会場として発足した。

 

「廻光会」という名称は「外にのみ向かいがちな心の光を自らの心に照らし返す」という意味で名付けられた。

活動の目的は「日常の喧騒の中で、仕事や家事に夢中で生活している私達にとって全てから解放され、自分というものを静かに見直す瞑想の環境と時間を持つ」というものであり、中央コミュニティセンターは願ったり叶ったりの施設でありました。

 

開催日は第二・第四火曜日の10時から12時の月二回。

 

内容は 一炷香の坐禅、読経(開経の偈、般若心経、観音経、四弘誓願文)、内田先生の推薦される本(注2)の講話を交えての輪読、そのあとの茶話会では新聞コラムの紹介等があり和気あいあいのうちにも充実したものでした。

 

ある時会員の一人から 内田先生に講義として「般若心経」「観音経」の解説を申し出たことがありました が、はっきりとお断りになりました。

 

今にして思えば「廻光会は教理を学ぶ場ではない、しっかり坐って自己と向き合え。それを日常生活に生かせ」とのお考えであったと知らされます。

 

この考え方・スタイルの基本は現在も変わらず受け継がれています。

 

・平成11年度  

 

社会情勢の変化にともなって女性だけの会から男性にも参加を 呼びかけ積極的な男性会員の参加をえて新生「廻光会」ともいうべき良い雰囲気で会の活動が滑り出しました。

 

・平成15年度  

 

会員数が増え常に12~15名が定例会に出席するようになり、 活動も軌道にのってきたので内田先生のお薦めもあり、4月の総会にて人間禅房総坐禅道場(以下房総坐禅道場)を借用して年二回の「一日静座会」を実施するこ とになりました。

 

「静座会」は10:00開始 15:20終了

 

・開始(日程、役位、 堂内作法の説明15分)

坐禅(45分)

・作務(55分)

・片付け(シャワー等30分)

・ 食事(30分)

・休息(15分)

法話(45分)

・お茶と反省会(20分)

・解散の順で 実施されました。

 

・平成16年度  

 

この年は「千葉の文化を語る会・禅と茶の集い・廻光会合同の 一日静座会」(参加者27名)が加わり「一日静座会」は年三回実施されました。

毎日新聞社の取材があり千葉版に会の紹介記事と写真が掲載されました。

 

・平成17年度  

 

17年4月の会員数が30人となり最多を記録しました、この年の「静座会」は合同および単独の二回が実施されました。

 

・平成18年度  

 

5月24日内田先生突然の帰寂。6月13日の定例会(20名出 席)で会の今後の進め方について協議、会の継続が決定されました。

7月25日房総坐禅道場にて「一日静座会」と内田先生49日の法要(参加者18名)を実施、 大友啓治さん(注3)から先生の若いころの話を聴く。11月に「合同静座会」 (参加者22名)を実施しました。

また大友さんが毎週火曜日(最終目標は毎日) はコミュニティセンターに行けば坐禅ができるようにしたいと提案された定例会 以外の第一・第三・第五火曜日にただ二炷香坐るだけの会が有志の参加をえて始まり、現在も継続しています。

 

・平成19年度  

 

4月の総会にて大友啓治さんを相談役とすることを決議。

年度後半はテキストとして芳賀洞然老師の講演テープ「茶禅一味」(大友さん所有)を 聴講するとともに会員で師範の資格をもつ清田恵子さんを先生として「お茶の基本作法」の実習を始めました。

 

この年は内田先生旧宅にて「一日静座会」を房総坐禅道場にて「合同静座会」を実施しました。

1月8日年初の定例会で大友さんの 講話(内田先生の残されたメモをもとに廻光会の歴史、内田先生の思い出、会名 「廻光」の由来、会の運営方針など)を聴講。

 

私の印象に残った内容としては内田先生が

「公共の施設でこのような活動ができることの有難さを大切にして継続していきたい。

そのため人間禅教団の活動と受け取られないようにすること。

例えば活動中の教団への勧誘や道号使用は禁止する。」

 とメモされていたことでした。

平成20年3月16日大友さん突然の帰寂。

 

・平成20年度  

 

4月の総会にて森本実さん(人間禅会員)を相談役として迎えることを決議。

「茶禅一味」のテープ聴了、「お茶会の作法」の実習が始まりました。

輪読のテキストは会員の合意で選ぶことになりNHK教育テレビ番組「こころの時代」のテキスト「道元の言葉」を採用しました。

「一日静座会」・「お茶会」を内田先 生旧宅および茶室「濯月庵」にて実施。

「合同静座会」を房総坐禅道場にて実施しました。

なお大友さん提案の「一・三・五火曜静座会」の平成19年度年間延べ出席者 は90人でした。

 

・平成21年度  

 

前年までの平均定例会出席者数が13人程度であったのに対し9人程度に減少。

内田先生旧宅にて「一日静座会」を房総道場にて「合同静座会」を実施しました。

森本さんは都合により相談役を辞退されました。 

 

・平成22年度  

 

入会間もない会員のためにテキストとして「坐禅のすすめ」を採用。

房総坐禅道場にて金峰庵老師の法話会に10名出席。

この年「一日静座会」は房総坐禅道場における「合同静座会」のみの実施でした。

地域新聞社の取材あり紹介記事と写真が掲載されました。

 

平成23年度  

 

テキストに「百歳の禅語」「ブッダ真理のことば」を採用。

総会にて年数回を茶道の稽古日とすることを決定。

房総坐禅道場にて金峰庵老師の 法話会に9名出席。

中央コミュニティ5階茶室にて初めての「お茶会」を実施し 11名が参加しました。

中央コミュニティまつりに「禅と茶の集い」「廻光会」で合同参加し坐禅体験教室を兼ね「合同静座会」を実施しました。

 

平成24年  

 

テキストに「ほっとする禅語」を採用。

房総坐禅道場にて金峰 庵老師の法話会に9名出席。

「禅と茶の集い」「廻光会」合同で中央コミュニティ まつりに参加「坐禅体験教室」を実施しました。茶道の稽古は5回実施しました。

「あさひふれんど」の取材があり紹介記事と写真が掲載されました。

 

・平成25年度  

 

総会にて定例会の静座は30分2回とすることに決定、新会員確保のため「坐禅体験教室」開催にあたり新聞への広報を復活することとしまし た。

茶道の稽古は4回、「廻光会」単独の「坐禅体験教室」を2回実施しました。

 

平成26年度  

 

テキストに仏教伝道協会刊行の八正道シリーズ「正しい見方・ 正見」を採用。

坐禅体験教室」実施、5名の参加があったが入会者なし。

茶道 稽古の一環として中央コミュニティ5階茶室での新年茶会および稲毛海浜公園・海星庵茶室での茶会を実施しました。

長年会長として会を導いてこられた 毛利久美子さん(平成3年入会)が退任され、新代表として境田(平成14年に 入会)が選任されました。

 

平成27年  

 

テキストに仏教伝道協会刊行の八正道シリーズ「正しいことば・正語」を追加採用。

2週連続の「坐禅体験教室」を実施し延べ9名参加うち4名が入会。

 

平成28年  

 

9月に2週連続の「坐禅体験教室」を実施したが地域新聞への掲載がなく参加者はなし、3月に追加実施(椅子坐禅も可を強調、地域新聞に掲載)し12名の参加のうち2名の入会者がありました。

また千葉市内公民館に会員募集ビラの掲示を実施し2名の入会者がありました。  

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上記以外にも40年の歴史のうちには平成7年のオーム真理教地下鉄サリンのあとには入会者が一人もないことがあったようです。

「廻光会」にとっての転機は平成11年女性のみの会から性別を問わない会に脱皮したことで、会の活性化と会員数の増につながりました。

 

順調に推移する歴史のなかで「廻光会」最大の危機は平成18年5月内田ふき先生突然の逝去と会の継続を申し合わせて歩みだした2年足らずの後、大友啓治さんという相談役を失った時であったと思います。

 

現会員のうち内田ふき先生および大友啓治さんから直接の指導・薫陶を受けた者は4名となってしまいました。

ただ大友啓治さんが発案されて始まった「第一、第三、第五火曜日静座会」は「廻光会」の正式開催日としてその遺志を受け継いで現在も継続中です。  

なおこの間「房総坐禅道場」には多年にわたり「一日静座会」会場の無料貸与、「法話会」への招待など多大なるご支援を頂戴したことに感謝しています。

 

平成29年現在会員は11名ですがほとんどが高齢者で、毎年開催する体験教室の参加者も同様です。

 

椅子坐禅、茶道の稽古、朗読本の選択、広報のやり方、会の運営方法など会員が話し合い工夫しながら会発足当初の活動主旨を受け継ぎ今後も「廻光会」の活動が途絶える事がないよう頑張っていきたいと思います。  

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注1:大正11年生まれ。群馬・千葉大学助手、同農村医学研究施設講師等歴任。医 学博士。昭和34年人間禅白田劫石老師に入門。「廻光会」発足当初から会の指導。 人間禅一等布教師、平成18年師家分上。

 

注2:「人間形成と禅」「数息観のすすめ」「合唱の精神」(立田英山著)、「禅者の人生観」「一行物」(芳賀幸四郎著)、「木に学ぶ」(西岡常一著)、「清貧の思想」「自分らしく生きる」(中野幸次著)、「93歳・私の証 あるがまま行く」(日野原重明新聞コラム)など

 

注3:昭和53年人間禅白田劫石老師に入門。人間禅哺教師、平成20年布教師。   

 

なお平成14年以前の出来事については「禅誌」に掲載された前会長・毛利久美子さんの「廻光会だより」を参考にさせていただきました。

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2.「廻光会」と私  

 

私が「廻光会」に入会したのは平成14年6月でした。

今その時の講座案内ビラを見返してみると「禅は哲学でも宗教でもありません。心を琢磨し正しい人間形成のための修行です。云々」とありましたが、勧誘文の内容に惹かれての入会であったとは記憶していません。

 

その頃の私は高校時代に国語の教科書で出会った論語の「心の欲するままに従って、矩(のり)を踰(こ)えず」の境涯に憧れを持っていましたので、柳宗悦南無阿弥陀仏」、西田幾多郎善の研究」などの著書の影響もあり本当の宗教に触れることによってこの境涯に近づけるのではと考えていたように思います。

 

入会当初は坐禅よりも内田先生の解説される臨済録の解説や推奨本の輪読の方に興味が向いていたように思います。

思い立って坐禅日課とするようになったのは入会後二年たった頃ですが確たる目標もなく漫然と坐っているだけでした。

 

平成17年の新年会で内田先生と直接話す機会があり「犬に吠えられたり猫に引っ掻かれたりしても許せるのに、不誠実な人間が許せないのはどうしてでしょう」と質問したところ「分別心があるからです」と答えられました。

その時は何をおっしゃっているのか全く見当もつかない境涯にありました。

 

先生が帰寂された後になりますが、真剣に坐禅に向き合い始めたのは平成23年か24年で新入会者の真剣な取り組みに触発されたためで、入会後10年も経ってからのことでした。

 

近頃やっと「坐禅」が「無分別心」を体得する有力な手段の一つではあるものの人生も残り少なくなったいま、死ぬまでに獲得するには相当の修行が必要と思っています。

 

最近一二年私の行っている町内会活動においてボランティアとして立派な肩書を持った人たちの不誠実・不正直な行いに遭遇しどうしても許すことが出来ません。

 

「無分別」になれず「我執」から逃れられない無力な自分を情けなく思います。

 

「心の欲するままに従って、矩(のり)を踰(こ)えず」に近づくには行住坐臥、日常生活において常に「無分別・無我」を心掛けることが求められるのでしょう。

 

私には程遠い境涯ではありますが、「廻光会」の良き同行と「坐禅」の助けを借りて生涯の目標として取り組んでいきたいと思っています。 (境田 格)