禅と茶の集い

みをただし いきをととのえ すわるとき そのみ そのまま みな ほとけなり

死にゆく人の心に寄りそう 看護師僧侶の妙憂さん

近畿圏の非常事態宣言が解除される中まだ首都圏4都県は継続中ですが,第一波は確実に過ぎつつあるようで千葉市では公共施設として一番早く図書館が復活してくれてます。

数か月前にリクエストしていた本が届いたと電話連絡あり,手にしたのが看護師僧侶の妙憂さんこと玉置妙憂さんが書かれた「死にゆく人の心に寄り添う」という光文社新書です。著者は看護師で,真言宗僧侶でもある方で僧侶の本とは参考文献からしてまったく違い,視点も話し方もとても現代的です。

旦那さまの自宅での看取り体験から,出家の決意をされて僧門に入られた方なのですが,特筆すべきは人間本来の自然死の過程がしっかりと書かれているところです。

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「着地体制」というキーワードに,思わず眼からうろこが落ちるような真実が淡々と描かれており, 病院勤務の医療者でも胃瘻や点滴,昇圧剤といったものが普通に使われて迎える「人工的な死」しか知らないことが多いのではないかと思いました。

そして自然な本来の人間の死に語って,なんと安らかで完結された「自然死」なのかと思い,同時に私自身の死への怖れである「苦痛」が延命処置によって作り出された一面もあると気がついた次第です。

 

もちろん在宅での看取りは著者が看護師だからこそできた部分もあったのでしょうが,ちょっと前の時代までは自宅での看取りも当たり前であり,よく時代劇などで親族などに囲まれて,遺言を残しつつ,皆に見守られながら,誇り高く亡くなって姿というのが思い出されました。

文中にQOD(死の質)という耳慣れない言葉が使われています。

QOL生活の質なら聞いたことある方も多いと思いますが,このQODはイギリスの「エコノミスト」という雑誌が2010年に提唱した概念だそうで2010年,2015年の調査でトップは2回連続でイギリスだそうです。

日本は14位。最下位の78位はフィリピンだそうですが,78か国以外の国もありますから最下位以下の国も多くあると思います。

 

著者の妙憂さんは高野山の修行を終えられた後も,剃髪のまま在宅看護などに看護師として携われており,終末期医療だけでなく依存症などの精神医療への活動も紹介されています。

 

ご自身が参加されている仏教的リハビリテーションプログラムGEDATSUは医学的には作業療法認知行動療法に分類されるものでしょうがやはり仏教的な要素が加味されている点で大きな違いがあります。 

「宗教性を消しすぎて心の拠り所がない」とはこの章の小見出しですが,精神疾患への宗教の活用には終末期とは違った方向性がある一方,デス・トライアルと言った仮想的な死の体験学習を通じての意識変容もあるようでした。

 

そして最終章は「医療と宗教が交わる場」です。

真言宗の僧侶らしく空海も重視されていた「医方明」を紹介されながら「医学は僧の基礎教養の一つだった」として薬草や鍼灸への造詣も深かったことが書かれております。確かに江戸時代までは医者は剃髪と僧形に近いスタイルでありましたね。

 

また制度的に確立してきている台湾の臨床宗教師も紹介されており,日本の東大病院に相当する国立台湾大学病院の呼びかけでこの制度が始まったことなど説明されています。

私個人的にもこうした活動が広まることで尊厳あるより安楽な死と,医療資源の無駄遣いの回避のヒントがあるように思えてなりません。 (ちなみに前述のQOD評価では台湾がアジアで一番です)

たくさんの人に一読いただきたい良書だと思いますのでご紹介します。(Ym)