禅と茶の集い

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現代社会人のための禅修行階梯 第一部(4)「自伝的自己」を支えるシステム

 Ⅳ 「自伝的自己」を支えるシステム   

 

地球上の生物進化史的観点からいえば、ヒトの「自伝的自己」(無宗教的な「日常生活の場」における「自伝的自己」であろうと、「禅修行の場」における「自伝的自己」であろうと、その他の社会の「自伝的自己」であろうと)には、多彩でしかも精緻な機能が多数含まれています。  

そのような機能の代表的なものを挙げてみましょう。

「睡眠欲・食欲・飲水欲・排泄欲・性欲などの生理的欲求に対する反応(行動に至るまでの)」、「快・不快、不安・恐怖・怒り・恨み・憎しみ・嘆き、あるいは喜び・笑いなどの情動を発現する機能」、「情動の発現と前後して自律神経症状を発現する機能」、「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・体性感覚などの感覚(エピソード記憶を想起する、意味記憶によって気付く・知覚する、などに至るまで)の機能」、「エピソード記憶(個人の出来事に関する記憶=「覚えている」といわれるもの)を集積・上書き・保存・想起する機能」、「意味記憶(定義とか数式とか歴史的なこととか社会常識などの記憶=「知っている」といわれるもの)を集積する機能」、「想起されたエピソード記憶によって、自分の命・財産・名誉・家族(子孫を残すことを含めて)・郷土・国などを守ろうとしたり拡張増大したり、あるいは自分達の思想や教えを保持し・強化し・拡張しようとする機能」、「集積された意味記憶によって、気付き・知覚・連想・思考・想像・内省・構想・企画する機能」、「過去・現在・未来を考える機能」、「危険危機に対しての方策を考える機能」、「政治・経済・社会・歴史・文化・人文・哲学などに関わる機能」、「数理・科学的なことに関わる機能」、「創造・芸術・芸能などに関わる機能」、「宗教あるいは宗教的なものに関わる機能」、そして「身体を動かしたり、行動する機能」などが挙げられるでしょう。 以上のような機能の中には、お互いに密接に関連があって、一纏めにして良いものもあるでしょう。

 

「快・不快、不安・恐怖・怒り・恨み・憎しみ・嘆きあるいは喜び・笑いなどの情動を発現する機能」と「情動の発現と前後して自律神経症状を発現する機能」とを、「エピソード記憶を集積・上書き・保存・想起する機能」と「想起されたエピソード記憶によって、自分の命・財産・名誉・家族(子孫を残すことを含めて)・郷土・国などを守ろうとしたり拡張増大したり、あるいは自分達の思想や教えを保持し・強化し・拡張しようとする機能」とを、「意味記憶を集積する機能」と「集積された意味記憶によって、気付き・知覚・連想・思考・想像・内省・構想・企画する機能」と「過去・現在・未来を考える機能」・「危険危機に対しての方策を考える機能」・「政治・経済・社会・歴史・文化・人文・哲学などに関わる機能」・「数理・科学的なことに関わる機能」・「創造・芸術・芸能などに関わる機能」・「宗教あるいは宗教的なものに関わる機能」とを一緒にまとめるということができましょう。

 

以上のことから、「自伝的自己」を支えるシステムとして、①「睡眠欲・食欲・飲水欲・排泄欲・性欲などの生理的欲求に対する反応(行動に至るまでの)」、②「快・不快、不安・恐怖・怒り・恨み・憎しみ・嘆き、あるいは喜び・笑いなどの情動を発現し、それと前後して自律神経症状を発現する機能」、③「視覚・聴覚・嗅覚・味覚・体性感覚などの感覚(エピソード記憶を想起する、意味記憶によって気付く・知覚する、などに至るまで)の機能」、④「エピソード記憶を集積・上書き・保存・想起し、それによって自分の命・財産・名誉・家族(子孫を残すことを含めて)・郷土・国などを守ろうとしたり拡張増大したり、あるいは自分達の思想や教えを保持し・強化し・拡張しようとする機能」、⑤「意味記憶を集積し、それによって気付き・知覚・連想・思考・想像・内省・構想・企画・創造する機能」(「過去・現在・未来を考える機能」・「危険・危機に対しての方策を考える機能」・「政治・経済・社会・歴史・人文・哲学などに関わる機能」・「数理・科学的なことに関わる機能」・「創造・芸術・芸能などに関わる機能」・「宗教あるいは宗教的なものに関わる機能」を含む)、⑥「身体を動かしたり、行動する機能」という6つのシステムを、当面挙げて置きたいと思います。

 

以上のようなシステムをつかさどる脳の部位としては、解剖学的に比較的明確にされているものもあれば、現在でも概念的で推測の域を出ないものもあります。(①と②は大脳辺縁系および視床下部、③の視覚は視覚経路と大脳皮質の視覚野(後頭葉)、聴覚は聴覚経路と大脳皮質の聴覚野(側頭葉)、嗅覚は嗅覚経路(大脳辺縁系を介して)と大脳皮質の嗅覚野(前頭葉)、味覚は味覚経路(視床を介して)と大脳皮質の味覚野(前頭葉、④は大脳辺縁系、⑥は運動野・体性感覚野⇔視床⇔小脳系、と密接に関係しています。⑤はおそらく大脳新皮質の広範囲な部分が関係しているのでしょう。)

 

また上記のシステムのあるものは、他のシステムが働き出す前に発動し、それによって他のシステムを支配下におくことも、しばしばみられます。特に①と②と③と④は先行し易く、⑤と⑥は後追い的です。 ここで大きな問題が浮上してきます。 今「自伝的自己」を支えるシステムとされた機能の中には、誕生時(中には誕生前)から、働き出すものがあり、それらは一時的にせよ「中核自己」とされるのではないか、という問題です。

確かに、①と②の一部(「快・不快」を発現し、それと前後して自律神経症状を発現する)と③と⑥は、誕生時(中には誕生前)から働き出しますので、「中核自己」の要素をも持っています。

このうち①と②の一部は、「自伝的自己」が成立した後には「自伝的自己」と完全に一体化していきます。というよりもむしろ①と②の一部(「快・不快」を発現し、それと前後して自律神経症状を発現する)が中心となって「自伝的自己」が成立していく、といってもよいかもしれません。 しかし③と⑥は、長じた後(特にシステム⑤の思考・内省能力が発達した後)に、意識的に「中核自己」と「自伝的自己」との部分に分離することが可能であるという特性を有しているのです。

 

そして先達方が工夫され現在までに伝えられたのは、この意識的に分離が可能という特性を利用して、③と⑥の中の「いま・ここ」のみという機能をうまく取り出し、その中の「宝物」を体得し・味わい・使いこなすための技というわけです。それを禅やマインドフルネスや各種の瞑想法で利用しているのです。(具体的な修練につきましては、第二部で触れられます。)