禅と茶の集い

みをただし いきをととのえ すわるとき そのみ そのまま みな ほとけなり

禅体験セミナー 禅と健康(2) 白隠禅師の坐禅健康法

セミナーでの話を今回から9回に分けて掲載します。

白隠禅師の坐禅(座禅)健康法】

 私自身は健康になろうと思って坐禅をしているわけではありませんが、実際問題として、禅は健康に悪くは無いと思います。心身の調和を進める方法ですから正しくやれば心身の健康を得られるといっても良いと思います。ただ、あくまでやり方次第なんです。
 

  坐禅と一口に言ってもいくつかの方法があって皆さんがいま練習しているのが数息観ですが、これはまず健康を害することはありません。気持ちはリラックスし、血液の循環は改善し、古来から安楽の法門と云われている方法です。一方で公案の工夫とか参禅とか云われている方法もあり、これは本格的な修行をする時のやり方です。坐禅の姿勢は同じなのですが、やっていることが違います。この公案の工夫は命がけで必死になってやりますので、長く続けていると頭に血が上り、血圧も時には上がり、昔の僧堂では満足な食事もとらず夜も眠らずに延々と行いますから、栄養失調にもなり、ついには肺結核を発病したりノイローゼになることもしばしばあったということです。何も好きこのんでそんな危ないことをしなくていいではないかという考えもなり立つと思いますが、命がけの切羽詰まった坐禅によってしか得られないものもあるでしょうから、一概にどちらが良いというものでは無いのかもしれませんね。私たちが坐禅をする時には、実際には公案の工夫や数息観を取り混ぜて行っています。

 

 さて、白隠禅師というえらい方が江戸時代の中頃におられましたが、皆さん名前をお聞きになったことがおありでしょうか?  現在ある禅宗の系統は大きく分けて曹洞宗臨済宗ですが、日本臨済宗の方は全員が白隠禅師の弟子筋となっています。この白隠禅師がお若い頃、命がけの坐禅を続けたおりに、ノイローゼの様な状態に陥り、その際に健康を取り戻すために行った方法が夜船閑話という本によって現在に伝わっています。その中で触れられている方法に内観の法と軟酥の法という物がありますが、どちらも坐禅を応用したやり方です。内観の法は丹田呼吸法といっておへその下あたりに意識を集中する呼吸法を中心とするテクニック、軟酥の法というのは頭の上に良い香りのする丸薬を載せているところをイメージする方法です。その丸薬が少しずつ溶けて頭蓋骨にしみこみだんだん下にしみこんでくる、そして最後は足先までしみこんでいくというイメージを坐禅の呼吸をしながら行います。呼吸法でもあり自己催眠的な方法でもあります。一言で言えば呼吸とイメージの力を利用して気を養い、ひいては肉体的にも病気を治してしまうという方法です。

 近代になってからドイツの医師(精神科医シュルツ)がこの白隠禅師の方法を応用して自律訓練法という心身症治療の方法を開発したことも有名です。今でも心療内科に行くとこのやり方で治療が行われています。(ちなみに心身症とは精神病とは全く違い、ストレスがらみでおこってくる身体の病気のことで、例を挙げると、緊張すると胃腸の調子が悪くなるとか、肩こり、頭痛とか、喘息、胃潰瘍、高血圧、アトピーなども心身症のうちに入ります。)

 

私はすべての病気が気を養うことで治るとは全く思っていませんが、それでも人間の中に備わっている自己治癒力を最大限に引き出す鍵はこの「気」という事にあると思います。そして、正しい方法で坐禅をすることには気を養うという効果があると思います。ただし、坐禅をすればたとえば、癌にならないとか、坐禅で癌が治ると云うことはまずおこりませんので、その辺の所はお間違えのないように願います。    

つづく